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初めまして。櫻井知之と申します。シェムリアップに住んでいる、というか閉じ込められています。昨年から取りかかっていたプロジェクトについて、初めて投稿します。そのプロジェクトとは、シェムリアップで最初の「メーカースペース」をオープンするプロジェクトです。

現在、Kickstarterでクラウドファンディングのために計画を準備しています。プロジェクトページができるまで、ここで計画について書く予定です。

簡単に言うと、「Makers」というメーカースペースを事業の一部として立ち上げます。事業と言ってもコミュニティベースで、エレクトロニクス、木工、そしてスマートデバイスを扱います。

プロジェクトは2019年の初めに始まりました。当時シェムリアップに滞在していましたが、実際にはバンコクに住んでいました。タイ語学校に通い、読み書きも含めてすべてのコースを終えたところでした。タイ語の習得は前職を退職したときから計画していたことでした。そこで次に何をやろうかと考えていました。あまりここに書けない、というか書きたくもないことがあり、ともかく次に何をすべきか考えていたところたどり着いたのが、「他の人の役に立つことをしよう」という結論でした。そして財務面の問題の解決から始まり、2020年の2月に正式に建物の賃貸契約を結ぶにいたりました。こうして、カンボジアの外国人投資家の一人になりました。

プロジェクトの提案書は別の投稿に譲るとして、まずはシェムリアップの現状について書きたいと思います。ただし、自分が知るのは身近に起きたマイクロニュースとマクロ的な情報しか知りません。パンデミック後、意識的に国内ニュースを避けてきたからです。

Googleなどで検索すると、検索結果はシェムリアップもしくはカンボジアの旅行情報しかありません。書き手は旅行者もしくは旅行者を対象にしたビジネスをしている人たちです。タイには9年ほど住んでいましたが、ブロガーやSNSユーザの数は多く、マイクロニュースから国の政策まで、多くのひとが情報発信しています。対照的に、カンボジアでは、在住者による情報発信が非常に少ないというのが現状です。誰かがこの国で起きていることを書くべき、つまりいいだしっぺの法則で、プロジェクトの最初の試みとして、皆さんに何が起きているのかをお伝えしたいと思います。

Covid-19後のカンボジア

市場前の 打ち捨てられた屋台。屋台の数は激減した。撮影場所: シェムリアップ
屋台の数は激減してしまった 撮影場所: シェムリアップ

まずタイで起きていることを比較対象として短く紹介します。タイはASEANの優等生でしたが、近年は域内で最低の成長率です。例外に漏れず、タイの産業、とくに観光業と製造業は大きな影響を受けています。パンデミック以前から経済は停滞し、そこへの追い討ちがパンデミックによる経済の落ち込みです。国境と国際空港は閉鎖され、外国人観光客はほぼゼロです。観光業はGDPの約20%ですが、数値として把握されない屋台、個人事業などの「影の経済」が大きいと言われるタイでは、統計での数値よりもはるかに大きな影響があると言われています。

カンボジアの状況も似ています。というかもっと悪いと推測します。まずはこの国の数字をいくつか紹介しましょう。

ご存知のとおり、世界の最貧国の一つとしてカンボジアは知られています。2018年の1人あたりのGDPは1,510ドルで、タイの1人あたりGDPの20%ほどです。観光業が占めるGDPの割合は32.8%で、タイよりも大きな割合を占めています。

国民1人あたりのGDP 出典: World Bank

日本のニュースでもお馴染みのジョンズホプキンス大学によるCovid-19感染者数は、2020/06/27現在で130人、死者はゼロです。

Johns Hopkins University

パンデミック以前の経済は、中国からの投資もあり、比較的好調でした。GDP成長率は年率7%、よいときでは10%を超えていました(GDP growth from World Bank)。

GDP成長率 出典: World Bank

シハヌークビルというカンボジア唯一のビーチリゾートの町は中国の投資が最も盛んに行われましたが、昨年末に実施されたオンラインギャンブルの取り締まり強化、そしてパンデミックにより投資資金、投資家、中国人労働者は去ってしまいます。残されたのはカンボジア人の負債だけでした。手洗いの励行は皆さんもしていることと思いますが、「ウイルス対策として20秒かけて手を洗うには約1.5 Lから2 Lの水が必要だ」そうです。1,600万人いる国民のうち、300万人以上が安全な水にすら事欠く状況です(Cambodia’s water and sanitation crisis)。電気の普及率は高く、97.6%の世帯に普及していますが、一般的な電力会社による電力が供給されているのは71.5%に過ぎず、26.1%はソーラーパネルのような太陽発電もしくはバッテリーが電力供給源です。電力会社によって供給されている世帯のうち69.3%では頻繁に停電が起きます(Cambodia - Beyond connections World Bankより)。多くの宿泊施設ではディーゼル発電機が設置されています。

2018年の外国人旅行客は620万人でした。そのうち32%の200万人は中国から、13%がヨーロッパ各国から、4.9%が韓国から、4%がアメリカから、そして3.4%が日本からでした(Tourism statistics report year 2018)。

観光業もパンデミック以前は好調でした。2017年と2018年には外国人観光客数も2桁成長を記録しました。しかし、2020年の4月の数値は実にマイナス99%、4,841人という惨憺たるものでした。

現在、カンボジア国籍者も含め、入国者には非常に厳しい規制がとられています。外国人旅行者が入国するのは至難の業です。実際の入国手続きがどのようなものか興味がある方は「Travel during the pandemic: Chicago/Sydney > Seoul > Phnom Penh」とお読みください。また、国民に政府批判は許されていません。現在の首相は30年以上権力の座についているからです。つまり、この政策が変わり、外国人旅行客が再び訪れるようになるのはかなり遠い先の話になります。

International tourist arrivals from 2015 to 2019, data from Ministry of Tourism International tourist arrivals, year on year, data from Ministry of Tourism
外国人観光客吸うの推移 出典: 観光省 Tomoyuki Sakurai作成

シェムリアップの現在

「ビジネス売ります」今やお馴染みの光景になった張り紙 シェムリアップ
"「ビジネス売ります」今やお馴染みの光景になった張り紙。多くの会社が閉鎖に追い込まれるか売りに出されている パブストリート シェムリアップ

さて、パンデミック後、シェムリアップでは何が起きたのでしょうか。これまでカンボジアは感染症の封じ込めに成功し、感染者数は非常に少なく抑えられています。感染者のほとんどは外国からの入国者、もしくはそれらの人と濃厚接触したひとのみです。WHOはカンボジアの取り組みを賞賛した記事を掲載しています(The first 100 days of the COVID-19 response)。

けれども、状況はまるでよくありません。国際線は運航停止され、国境も閉鎖され、本来来るはずだった観光客はそれぞれの国から出ることもできません。経済的な面では、政府はいくつかの税金を免除するなどで対応しているだけです。シェムリアップには数千のレストランやホテルがあると言われていましたが、ほとんどが休業、閉鎖、売りにだされている状況です。パブストリートと呼ばれる夜の繁華街の中心地は、文字通りゴーストタウンと化しています。店を開けているのはごく僅かな家族経営の店舗のみです。私立学校、公立学校、インターナショナルスクール、大学も閉鎖されたままです。生徒の保護者は学費の返金を求めていますが、学校側も固定費の支払いがあります。学校ですら生き残りが危ぶまれています。生徒達は学校に行けず、教育機会は失われています。先生らも仕事を失いました。誰もが苦しんでいます。

スマートフォンでゲームに興じ る子供たち。母親は「毎日ゲームばかりしている」と語る 撮影: ワットボー シェ ムリアップ
スマートフォンでゲームに興じ る子供たち。母親は「毎日ゲームばかりしている」と語る 撮影: ワットボー シェ ムリアップ

ノルウェイ出身のサイモンとカトリーナはBabel Guesthouseを経営しています。この危機に際して、アンコール・ワットの今、そして困難に直面する人々を映す映像を2人は作りました。

彼らのゲストハウス(この原稿はそこで書いています)はまだ閉鎖していませんが、宿泊客は滅多に訪れません。従業員もトゥクトゥクドライバーも切実にお金を必要としています。この2人はやれることはなんでもして、この危機を乗り越えようとしています。

プロジェクトの始まり

お気に入り のゲストハウス。チェンレイゲストハウスは2ヶ月の休業ののち営業を再開した。 彼らは幸運な例外 撮影: ソクサンロード シェムリアップ
お気に入りのゲストハウス、チェンレイゲストハウスは2ヶ月の休業ののち営業を再開した。彼らは幸運な例外 撮影: ソクサンロード シェムリアップ

自分は、これまでに路上の物乞いにお金を渡したことはありません。恵んだお金が物乞いの生活を変えることはないからです。お金を渡すことで物乞いは路上で物乞いを続けるようになります。一般論として、支援はその支援を必要とすることなく、自立できることが目標であるべきです。同情は自立を妨げます。これまで、カンボジア人からは「仕事をくれ」と言われたことがありますが「金をくれ」と言われたことはありません。仕事の機会が提供できるようになるまではまだ時間がかかりますが、自分には自分なりにできることがあります。道案内や手助けは必要です。お金だけの支援ではありません。自分は、自らを助けようとする人を助けたいと思います。これはプロジェクトの目標の一つでもあります。

この長い文章を読んでいただき感謝します。ご褒美として、このプロジェクトの計画書を用意しました。ぜひ、お読みください。ありがとうございました。